那覇地方裁判所 昭和58年(わ)59号 判決
裁判所書記官
具志堅安亮
本籍
沖縄県那覇市久米一丁目一二番地の二
住居
同県浦添市字城間三、一六八番地
会社役員
川畑キヨ子
昭和四年一一月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小杉雄次出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、沖縄県浦添市字城間三、一六八番地に居住し、同県那覇市牧志二丁目一六番五四号において回胴遊技場「モナコゲームス」を営んでいたものであるが、自己の昭和五六年分の所得税を免れようと企て、同店の売上及び景品仕入の一部を除外して簿外の仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同年分の実際総所得金額は一億九、一八二万四、三一九円でこれに対する所得税額は一億二、七一九万五、九〇〇円であるのにかかわらず(別紙一修正損益計算書、別紙二脱税額計算書各参照)、昭和五七年三月一五日、同県浦添市字宮城六九七番地の七所在の北那覇税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の総所得金額は三、四六七万六、六一九円であってこれに対する所得税額は一、三一九万〇、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五六年押第二八号の25)を提出し、もって同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一億一、四〇〇万五、八〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書六通(昭和五八年三月一〇日付を除いたもの)
一 川畑悦子(同月一七日付((二二枚綴の分))を除いた五通)、川畑幸雄(同月一二日付((一三枚綴の分))を除いた六通)、川畑洋子(二通)、川畑康雄、興儀キヨ(三通)、仲村渠光良、鄒士文及び我喜屋登美の検察官に対する各供述調書
一 宮園幸蔵の大蔵事務官に対する昭和五八年三月七日付質問てん末書及び検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書、脱税額計算書説明資料(二通)、昭和五六年分の所得税額計算書、売上高(モナコゲームス)調査書、売上金処理調査書、期首期末商品たな卸高調査書及び検査てん末書
一 那覇警察署防犯少年課長作成の捜査関係事項照会回答書
一 那覇市長作成の税の納付状況照会に対する回答書
一 登記官作成の登記簿謄本五通
一 有限会社丸朝商事代表取締役作成の申述書
一 押収してある賃金台帳二冊(昭和五八年押第二八号の4、5)、売上帳二冊(同号の6、7)、売上日報三冊(同号の8ないし10)、景品在庫ノート二冊(同号の13、14)、売上等をメモした手帳二冊(同号の15、16)、メモ一枚(同号の18)、日計票一冊(同号の22)、確定申告資料一綴(同号の24)及び五六年分の所得税の確定申告書(一般用)等三枚(同号の25)
(法令の適用)
被告人の判示行為は所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に該当するところ、所定の懲役と罰金を併科し、かつ、免れた所得税の額が五〇〇万円をこえるので、情状により同法二三八条二項を適用することとし、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五万円を一日換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、判示のように回胴遊技場「モナコゲームス」を営んでいる被告人が昭和五六年分の所得税一億一、四〇〇万円余を免れた事案である。被告人はその動機として前年後半の赤字分の埋め合わせをしたいと考えたとか、回胴遊技場業は経営が不安定であるから利益があるうちに蓄財しておきたかったなどと供述しているが、これらが脱税を正当化する理由になり得ないことはいうまでもなく、他に本件脱税の動機として酌むべきものは認められない。また、本件犯行の態様は、当初からの強い脱税意図のもとに、昭和五六年一月、同店の経理事務を担当していた長女川畑悦子に対し同店の一日の売上利益を帳簿上は実際額よりも少なく記帳するよう指示し、同年七月初めころには、近くに同業者が開店し営業を始めモナコゲームスの売上が落ちてきたため、さらに売上利益を減額して記帳するように指示して売上利益の一部を除外し、右利益分を銀行の仮名預金等に入金して隠匿するなどしたというものであるし、脱税額も極めて高額であり、ほ脱率も約九〇パーセントにのぼっているのであって、本件は、単に納税義務に違反し国家の財政的基磐たる徴税権能を侵したというにとどまらず、一般国民の申告納税制度に対する不信用からくる不公平感を助長し、ひいては、その納税意欲に著しい影響を及ぼしかねない重大悪質な事案である。加えて、被告人は本件発覚後も川畑悦子らと相談のうえ証拠の隠滅をはかろうとしており、これらの事情に照らすと、被告人の刑事責任は重いというほかない。
しかしながら、他方、被告人はほ脱者の当然の義務であるとはいえ保釈後に昭和五六年分の所得税の修正申告を行ない本件についてはもとより、被告人の夫が経営し、又は代表者となっている関連企業についても、一切の本税、延滞税、重加算税等を完納していること、被告人は本件によって五〇日間身柄を拘束されたうえ、「モナコゲームス」も休業に追い込まれるなど、それなりに社会的制裁を受けていること、被告人は勾留中に本件事案を認めるようになってからは結審にいたるまで右供述を維持し、反省の態度を示していること、被告人には風俗営業等取締法違反罪によって二度罰金刑に処せられているほかは前科がないこと等の事情も存するので、これらの諸事情をも十分に考慮して主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮城安理 裁判官 知念義光 裁判官 山下寛)
別紙一 修正損益計算書
モナコゲームス事業所得
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
〈省略〉
別紙二
〈省略〉